外食をする時は、いろんなお店に行ってみたいというよりも…いつものお店で、いつものお気に入りを食べるほうが好きな…外食守備範囲が猫の額ほど狭い、kobayashi(parking@ace)です。
かつ丼の“かつ”が…噛むとサクって音がする
札幌に住んでいながら知らない飲食店が多いなと、よく実感したのは学生時代。道内のいろいろな地方から来た友人達の方が、僕よりも知っているお店が多くて…よく紹介してもらい一緒に行っていました。
本来なら札幌に長く住んでいた、こちらがすべき事だと…自分の無知をちょっとだけ恥ずかしく思っていました。そんな中、友人が「かつを噛むとサクって音がするかつ丼が食べれる店があるんだよ」と言いだしました。
…かつ丼の具は煮て作るものだから、そんなサクサク感が残っているものなんてあるのだろうか?という疑問が湧くと同時に興味を持ち、その友人に店名を聞きました。「そのお店なんていうの?」
狸小路の近くにある「とんかつ すみだ川」
店名を言った友人の軽めのドヤ顔を受け流しつつ…2人で学校帰りの夕方、狸小路を抜けてそのお店に向かいました。バランスのとれた品のいい筆文字で「すみだ川」と書かれている、小ぶりな白い看板を掲げるビルを確認し、店舗が入っている2階へ…。
歴史を感じる仄暗い階段を登る際、とんかつの甘い香りが僕の食欲をそそりました。店内も時間の経過を感じる佇まいですが、初めてでもなんとなくほっとする雰囲気があり好感が持てました。
そして「すみだ川」を思い出す時…頭の引き出しに一緒にしまってあるのが、窓から差し込む西日です。全体的に暗めの店内に差す西日は、実家でずっとみてきたものと重なり…安心感を感じるものだったからかもしれません。
サクって音が…
そして友人おすすめのカツ丼を注文。待っている間はレジ近くになかなかの量を揃えている「美味しんぼ」を読むのが、この日以来なんとなく慣例となっていました。
究極と至高(美味しんぼ定番の料理対決です)が盛り上がりを見せる頃、かつ丼が到着しました。トレイにのった“かつ丼・味噌汁・漬物”がひとつのセットになっています。まずは味噌汁で口内を潤します…これが美味い、かつ丼への期待をより高める味でした。そして「サクっ」を確かめる瞬間が来ました。丸く成形されたかつを一口…
サクっ
本当に音がしました。断面を見てみると、豚ロースがかなり大きめのミンチ状になっていて、いやらしいほどの肉汁を溢れさせていました。
かつ丼をよく見てみると、揚げた“かつ”の上に…つゆで煮込んだ玉ねぎを卵でとじたものがのっけているので、“かつ”の食感が損なわれることはありませんでした。これは肉屋から始めた店主のこだわりだと思います。
1975年オープンの「とんかつ すみだ川」
40年以上営業を続けたこちらのお店は、素材の肉・調理法にこだわり続けたからこそ長く愛されたと思います。
友人に紹介されてからは1人でも通い続け…ここでしか味わえない“かつ丼”を美味しんぼを片手に、すみっこのテーブルで食べるのが贅沢な時間となっていきました。そして月日は流れ…結婚し、子供もできて…行動範囲は札幌駅中心となり、狸小路に行く機会がなくなりました。
いつかまた行きたい…こんな気持ちを持ち続けながら、僕はブログをはじめました。自分が好きな札幌について書こうと考えていた時…「とんかつ すみだ川」は思い入れの深さゆえ、とっておきの記事として真っ先に候補に上がりました。
しばらく行ってないので、うる覚えの部分の補正と写真を撮るため、久しぶりに行く事を決めました。
2018年8月20日に…
北海道新聞にも掲載されたので、札幌にお住いの方は知っている方がいるかと思いますが…2018年8月20日に閉店しているという事を知らず…お店の前で僕は呆然と立ち尽くしてしまいました。またしても僕は自分の無知を恥じました…。
後から調べてみると、最終日のランチ営業を終えた店主は「やりきった」というさっぱりとした顔をされていたという事なので、なんだか僕はほっとしてしまいました。
西日が差し込む店内で、ここでしか味わえない“かつ丼”を美味しんぼを片手に食べることはもう出来ませんが…思い出深い“かつ丼”をいつも提供していただきありがとうございました。遅ればせながら、長い間本当にお疲れ様でした。あの店内で食べた“かつ丼”を僕は忘れることはないでしょう。